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講演

平成27年1月11日(日)に広島漢方研究会新年シンポジウムで講義をしました。

平成27年1月11日(日)に、広島漢方研究会の新年シンポジウムで、院長が「便秘」についての、総括の講義をしました。その時の講義の内容の一部を載せます。

便秘について

山崎正寿

便秘とは
「糞便が永い時間腸管内にとどまり、水分が吸収されて排便に困難になった状態」と言える。毎日排便があっても少量で硬くうまく出ない場合は便秘とするし、一日おきの排便であっても充分快便であれば便秘とはしない。個人差があると言える。したがって排便の回数でいうよりも、「食べたものに見合うだけの排便量がなくて、そのために何らかの症状(不快感、腹満、腹痛、頭痛など)がある場合」とも言い換えることもできる。
便通は心理的社会的要因も関係し、小児期より毎日排便があることを重要視する習慣がある場合、毎日排便がないと大いなる不快感となる。成人になって忙しい時とか、仕事を途中で中断したくない時、排便をがまんすることがある。

便通の仕組み
食べた物が口から入って肛門から排泄されるまで、ほぼ24~48時間である。通常朝起きて食事をしおわって、便意を催し排便するのがごく普通のあり方である。朝目覚めて立ち上がることによって、腸の運動が始まり、大腸における糞便が朝一番に輸送され始める(起立大腸反射)。朝食を摂って胃に食物が入ると、強力な腸の運動が起こり(胃大腸反射)、大腸中の糞便が大量に直腸に輸送される(分節運動、蠕動運動、集団運動)。直腸内に糞便がたまってくると、直腸内の内圧が高まり、腸壁が伸展される、すると腸壁の神経を介して脳の中枢から便意(排便したいという気持ち)を催し、トイレに入り排便姿勢(しゃがむなり、腰掛けると肛門直腸角が120度となる)になり、肛門括約筋が緩み、意識的な腹圧によって排便する(排便反射)。

どうして便秘になるか
単純に言えば、大腸の中で便ができあがっても、それがうまく輸送できないか、あるいは輸送できても肛門の出口でつまって、自力ではだせなくなった状態といえる。

漢方治療
漢方では便秘だからといって、いきなり下剤を使うのでなく、その人の体の病状に合った薬を処方することによって、下剤を使わなくても便通をよくすることができる。しかし、そうした治療によってもうまく便通がないときは、それこそ大黄という薬を適切に用いて便通をつけることになる。漢方では大黄をうまく使える者ほど名医といわれる。大黄はなるべく年月のたった古いものほど、腹痛を起こさないで便通をつけることができるといわれている。以下に示すように、さまざまな大黄を含む薬方があり、その人の表わす病症にしたがって使い分けることになる。漢方医学は多彩な便秘薬を使い分けていることになる。

○清利諸方-清熱通利、宿食

  • 大承気湯(大黄、厚朴、枳実、芒硝)
  • 調胃承気湯(大黄、甘草、芒硝)
  • 小承気湯(大黄、厚朴、枳実)
  • 三黄湯(大黄、黄芩、甘草、山梔子)
    「下焦熱結し、大便し得ざるを治す」[千金]
  • 大黄甘草湯
  • 芎黄円(川芎、大黄)
    「風熱壅盛し、頭昏、目赤、大便艱難なるを治す」[楊氏家蔵方]

○疎利疎気諸方

  • 枳実大黄湯(枳実、厚朴、大黄、檳榔、甘草)
    「胸腹に食積有りて、大便不通の者を治す」(回春)
  • 三和散(三脘湯)(大腹皮、蘇葉、独活、沈香、木瓜、川芎、蒼朮、木香、甘草、檳榔、橘皮)
    「三焦気逆し、大便秘滞し、胸脇満痛脹するを治す」[伝家秘宝]
    「気の壅滞を疎利す」[方函口訣]

○潤下潤燥諸方―亡血、津液枯渇

  • 痲子仁丸(麻仁、芍薬、杏仁、枳実、大黄)[傷寒論]
    「老人の虚秘を治するに、最も佳なり」
  • 潤腸(丸)湯(当帰、熟地黄、生地黄、麻仁、桃仁、杏仁、枳殻、黄芩、厚朴、大黄、甘草)
    加檳榔・升麻・木香
    「大便閉結不通を治す」 [回春]

○温利諸方

  • 桂枝加芍薬大黄湯[傷寒論]
    「本、太陽病、医反って之を下し、因って腹満時に痛む者、太陰に属す。
    桂枝加芍薬湯之を主る。大いに実して痛む者、桂枝加大黄湯之を主る」
  • 大黄附子湯[金匱要略]
    「脇下偏痛、発熱す。其の脈緊弦なり。此れ寒なり。温薬を以て之を下す。
    大黄附子湯に宜し」
  • 半硫丸(半夏、硫黄)[三因方]
    「年高うして風秘、冷秘、心腹一切の痃癖冷気を治す」
    「気逆、頭痛を治す」[方函]

○瘀血諸方

  • 桃核承気湯(芒硝、大黄、桂枝、甘草、桃仁)
    「傷寒蓄血、少腹急結を治す」[傷寒論]
  • 抵当丸(水蛭、虻虫、桃仁、大黄)

○外治諸方

  • 蜜煎導など

  • 講義の模様